圧倒的な3D画質と明るさは注目すべき
三菱からDLPプロジェクターの新製品が発売される。そう耳にした方がの多くのは「いつものアレの最新版だな?」と思い浮かぶことだろう。しかし、今回の製品はいくつかの点でいつもとは異なる。 まず上下方向へのレンズシフトが可能になったこと。これだけでもシフト機能の無かった従来に比べての価値はあるが、さらに極めて品位の高い3D投射が可能になり、また2Dの品位も高まっている。もちろん、従来機ユーザーにとって手軽にグレードアップできる、より優れた新モデルであることは間違いないが、圧倒的な3D画質と明るさは、従来、三菱ファンではなかったユーザーも注目すべきである。
まずは3D。いつものアバターを試聴すると、そのクロストークの少なさが瞬間的に理解できた。左右像の分離がきちんと行われているからだ。明るいシーンはもちろん、黒バックに幻想的蛍光色の植物が映えるシーン。輝度差が大きな映像はクロストークが出やすいが、本機では全く二重像を感じることはない。どのシーンも立体感がより明瞭で、細かなテクスチャの凹凸加減まで、曖昧な表現なく気持ちよい3D感が味わえるのだ。今まで数々の劇場で3D映像を見てきたが、ここまでクロストークの少ない3D映画は、本機を体感するまで存在しなかった。
長時間3Dを楽しめる独自開発の3Dメガネ
こうした優れた3D画質が実現できている理由のひとつは、超高速で動作するマイクロミラーで投影するDLP方式を採用しているためだ。DLPの表示に使われるDMD素子は、全画素を一度に書き換えて同時に動作する。しかもミラーの動作遅延は全く無視できる。
DLPは3D映像を見せるために、最適なデバイスだと言えよう。3Dメガネの液晶シャッターが機能する際のコントラスト差が、そのままDLPの3D性能を決定づけていると言っても差し支えないほどだ。すなわち、クロストークはほとんど見えないのだ。
これだけならば、すべての3D DLPは同じように優れている事になるが、三菱はもう一工夫を盛り込んできた。ご存知のように単板DLPは、RGBのカラーフィルタが施されたホイールを回しながら、順に色を表示して積算値として色を表現する。通常、1枚のカラーホイールにはRGBパートが2ゾーンあり、1/60秒あたり2回転すれば4回、3回転させれば6回、RGB表示を繰り返す。
3D映画ではこの表示タイミングを左右に振り分け交互に表示するが、一つの問題がある。3Dメガネの液晶シャッターが開閉する間はクロストークを防ぐため、全黒で待機する必要がある。ところが、切り替えを待っている間にもカラーホイールは回っているため、RGBの切り替えサイクルを一回分、飛ばさなければならないため、明るさを失わざるを得ない。
そこで三菱は強誘電型液晶を採用した独自の3Dメガネを投入した。この液晶素子は中間調を表現できない代わりに、圧倒的な高速動作でシャッターを切り替える能力を持つ。上記カラーホイールの例でいうと、1回転に必ず存在する“スポーク”と呼ばれる、ごく狭いカラーフィルタの存在しない角度を通過する瞬間に、メガネのシャッターが切り替わるため、光量が減じられることがない。
しかも、この独自開発メガネでは、開口時間が通常の3Dテレビ/プロジェクターよりも長くなるためか、フリッカー感をまったく感じない。これならば、2時間どころか4時間でも6時間でも3Dを楽しめるだろう。この“楽に見える3D”は、1500ANSIルーメンの明るさや10万対1といったスペックよりも、ずっと重要な点であろう。
光の余裕は画質にも現れる。爽やかに伸びる白は、アクション系も多い3D映画をダイナミックに描いてくれるし、平均輝度の高い3Dアニメの表現も伸びやかだ。
さらに素子自身は従来と同じにもかかわらず、3D用に誤差拡散処理など階調表現のためのフォーマットが2個使いで入っているためだろうか。より豊かな階調、特に暗部の表現力がグッと増している。3D化という大きな節目において設計を見直し、2D画質に関しても、“いつもと同じ三菱”ではなく、新たに基礎体力を高めた三菱になっているのは画質の面からも明らかだ。
一度は体感したいDLP 3Dプロジェクター
レンズシフトを設けたことによるコントラスト低下の不安は、「ダークナイト」で完全に払拭された。絶対的な黒輝度うんぬんの前に局所のコントラストが高いため、真っ黒な背景に光を載せるような表現で、キレの良い映像を見せてくれる。
そうかと思えば、絶妙のトーンカーブでのフィルムトーンの再現もこなす従来からの美点は健在。穏やかなタッチで英国の空気を描く「わたしを離さないで」のナローレンジな映像が、滑らかに階調のつながりよく描かれた。ダイナミックな3D映画の後に視聴すると、シーンごとに質感を描き分ける本作品の繊細な演出の再現性に、心がホッと和むようである。
“いつもの三菱”よりも若干、価格が上がったことも例年との違いだが、いやいや価格以上にその中身は良くなっている。改善、改良などとは言いたくない。これは全く別の製品である。従前の経験を活かし、DLPの特徴をよく引き出した上で、独自の3D投影機能を組み込んだ。DLPというメーカー間の違いを見せにくいプラットフォームで、見事に三菱は“自分たちだけ”の世界を描き出すことに成功したのである。
今年の3Dプロジェクターは、どれも長足の進歩を遂げているが、中でも本機の映像は、一度は体感すべきである。3D映画とはどんなものなのか。それを知るために、もっとも適した家庭用プロジェクターのひとつであることは疑う余地
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